あるあきのむらさきしきぶ
或る秋の紫式部

冒頭文

時寛弘年間の或る秋処京の片ほとり人紫式部  三十一二歳老侍女妙な美男西向く聖(舞台正面、質素な西の対屋の真向き、秋草の生い茂れる庭に臨んでいる。その庭を囲んで矩形に築地垣(ついじがき)が廻らされているが、今は崩れてほんの土台の型だけ遺(のこ)っているばかりなので観覧席より正面家屋の屋内の動静を見物するのに少しも差支えない。上手、築地垣より通路一重を距てて半(なかば)、紅葉した楓(かえで)の木の下に

文字遣い

新字新仮名

初出

「むらさき」1935(昭和10)年11月号

底本

  • 岡本かの子全集2
  • ちくま文庫、筑摩書房
  • 1994(平成6)年2月24日