ぼくじょうのおんがくし
牧場の音楽師

冒頭文

夕方になると、私はなんとなくじつとしてゐられないので、定つて散歩に出る。ぐるりとこの病院内を一巡りするのであるが、一体もう幾度同じ所を同じやうに巡つたことだらう。気分の重い時や、腹立たしい時は、何時も見て知つてゐる風景ばかりなのでひどくうんざりしてしまひ、空に流れてゐる白い雲にまで毒づいてみたくなる。高い所へでも登つて見ない限り山も見えず、海は勿論、清らかな小川の流れさへも眺めることの出来ないここ

文字遣い

新字旧仮名

初出

底本

  • 定本 北條民雄全集 下巻
  • 東京創元社
  • 1980(昭和55)年12月20日