ねんとうざっかん |
年頭雑感 |
冒頭文
思へばここ数年来、年あらたまる毎に私の生活は苦痛を増すばかりであつた。十七の春、小林多喜二氏の「不在地主」を読んで初めて現実への夢を破られた私は、それ以来愚劣な人生と醜悪な現実を友として過して来た。夢は遠く消え失せ、残つたものは冷い鉄くづや、何の役にも立たない石ころばかりであつた。そしてエントロピーが極大限に達した瞬間を想像しては、にやにやと笑ふのであつた。それ故に癩の発病は私に対して大した力を持
文字遣い
新字旧仮名
初出
「科学ペン」1938(昭和13)年
底本
- 定本 北條民雄全集 下巻
- 東京創元社
- 1980(昭和55)年12月20日