いのなかのしょうがつのかんそう
井の中の正月の感想

冒頭文

諸君は井戸の中の蛙だと、癩者に向つて断定した男が近頃現れた。勿論このやうな言葉は取り上げるに足るまい。かやうな言葉を吐き得る頭脳といふものがあまり上等なものでないといふことはも早や説明の要もない。しかし乍ら、かかる言葉を聞く度に私は、かつていつたニイチェのなげきが身にしみる。 「兄弟よ、汝は軽蔑といふことを知つてゐるか、汝を軽蔑する者に対しても公正であれといふ、公正の苦悩を知つてゐるか。」

文字遣い

新字旧仮名

初出

底本

  • 定本 北條民雄全集 下巻
  • 東京創元社
  • 1980(昭和55)年12月20日