どうていき
童貞記

冒頭文

部屋の中で はかなくうら悲しい日が続く。万象を浮せる一切の光線は湿つて仄暗い。夕闇のやうに沈んだ少年の眼は空間にゆらぐ幽かな光線を視つめる。空気に映つた光線は静かに一つの映像を刻んで行く。光線は盛り上り広まり伸びて鮮明な像を少年の眼に映す。少年の眼はやがて閉されて心に映つた幻像の動きに見惚れる。じつと、じいつと視つめる少年の心が宙に浮き上つて空間をさまよふ。われを忘れんとした間髪、少年の眼はうる

文字遣い

新字旧仮名

初出

「山桜」1934(昭和9)年7月号

底本

  • 定本 北條民雄全集 上巻
  • 東京創元社
  • 1980(昭和55)年10月20日