かんしゃくだま
かんしやく玉

冒頭文

彼女隣の女多田彼小森阿部 アパアトとは名ばかりの、粗末な貸室。左の隅にダブルベツド。右に炊事場に通ずるドア。正面に旧式のシンガアミシン。三月のなかば。午後四時ごろ。彼女は、ミシンの手をやめ、縫ひかけのローブを両手で胸にあてがひ、鏡の前に立つ。 彼女  (独り)なかなかいゝぢやないの。カーテンのお古だなんて見えやしないわ。 ドアをノツクする音。彼女は、黙つてドアを開けに行く。隣の女がバナナをたべ

文字遣い

新字旧仮名

初出

「週刊朝日 第二十巻第二号」1931(昭和6)年7月5日

底本

  • 岸田國士全集5
  • 岩波書店
  • 1991(平成3)年1月9日