なかがわのすずきつり
那珂川の鱸釣り

冒頭文

私は、ふた昔それ以上も久しい前、水戸に浪人していたことがあった。毎日、なすこともないのであるから、釣りにばかり耽っていた。千波沼の、おいかわ釣り。那珂川上流の、鮎の友釣り。那珂川下流の、鮭の子に鱸(すずき)釣り。備前堀の鯉釣りなど、季節季節の釣りに追われるような思いを持ってきた。 しかし、おいかわや鮭の子など小物釣りにはいささか飽いてきたようである。なるほど、おいかわや鮭の子釣りには、小

文字遣い

新字新仮名

初出

「釣趣戯書」三省堂、1942(昭和17)年

底本

  • 垢石釣り随筆
  • つり人ノベルズ、つり人社
  • 1992(平成4)年9月10日