とんぼがえり
蜻蛉返り

冒頭文

私は、呑んべえであるから、酒の肴にはいつも苦労する。うるか、惣太鰹(そうだがつお)の腸の叩き。まぐろのいすご、鱸の腹膜(ふくまく)、このわた、からすみ、蜂の子、鮭の生卵、鰡(ぼら)の臍(へそ)、岩魚(いわな)の胃袋、河豚(ふぐ)の白精(はくせい)など、舌に溶け込むようなおいしい肴の味を想い出しては、小盃の縁をなめるのである。 そのうちでも、からすみは大好物のうちに属する。長崎からきた上も

文字遣い

新字新仮名

初出

「釣趣戯書」三省堂、1942(昭和17)年

底本

  • 垢石釣り随筆
  • つり人ノベルズ、つり人社
  • 1992(平成4)年9月10日