とねのしゃくあゆ
利根の尺鮎

冒頭文

一 私は利根川の水に生まれ、利根川の水に育った。 利根川の幽偉(ゆうい)にして、抱擁力の豊かな姿を想うと、温かき慈母のふところに在るなつかしさが、ひとりでに胸へこみあげてくる。私は、幼いときから利根川の水を呑んだ。泳いだ。そして釣った。 上州と、越後の国境に聳え立つ山々へは、冬のくるのが早い。十月下旬にもう雪が降る。大赤城の山裾は長く西へ伸び、榛名山の裾は東へ伸びて、その

文字遣い

新字新仮名

初出

底本

  • 垢石釣り随筆
  • つり人ノベルズ、つり人社
  • 1992(平成4)年9月10日