ぞうじょうじものがたり
増上寺物語

冒頭文

五千両の無心 慶応二年師走のある寒い昧暗(まいあん)、芝増上寺の庫裏(くり)を二人の若い武士が襲った。二人とも、麻の草鞋(わらじ)に野袴、革の襷(たすき)を十字にかけた肉瘤盛り上がった前膊(まえかた)が露(あらわ)である。笠もない、覆面もしない。 経机(きょうき)の上へ悠然と腰をおろして、前の畳へ二本の抜き身を突きさした、それに対して、老いた役者が白い綿入れに巻き帯して平伏している

文字遣い

新字新仮名

初出

底本

  • 完本 たぬき汁
  • つり人ノベルズ、つり人社
  • 1993(平成5)年2月10日