一 このほど、御手洗蝶子夫人から、 『ただいま、すっぽんを煮ましたから、食べにきませんか』 と、言うたよりに接した。 一体私は、年中釣りに親しんでいるので、いつも魚の鮮味に不自由したことがない。殊に爽涼が訪れてきてからは、東京湾口を中心とした釣り場であげた鯛、黒鯛、やがら、中鱸(すずき)などの膾(なます)、伊豆の海の貝割りのそぎ身と煮つけ、かますの塩焼きなどを飽喫してい