しゅとひょうはく
酒徒漂泊

冒頭文

一 昨年の霜月のなかばごろ、私はひさしぶりに碓氷峠を越えて、信濃路の方へ旅したのである。山国の晩秋は、美しかった。 麻生豊、正木不如丘の二氏と共に、いま戸倉温泉の陸軍療養所に、からだの回春を待ちわびている三百人ばかりの傷病兵の慰問を志して、上野駅から朝の準急に乗った。峠のトンネルを抜けて、沓茫(とうぼう)とした軽井沢の高原へ出ると、いままで汽車の窓から見た風物とは、衣物の表と裏のよ

文字遣い

新字新仮名

初出

底本

  • 完本 たぬき汁
  • つり人ノベルズ、つり人社
  • 1993(平成5)年2月10日