このはやまめ |
木の葉山女魚 |
冒頭文
奥山へは、秋の訪れが早い。 都会では、セルの単衣(ひとえ)の肌ざわりに、爽涼を楽しむというのに、山の村では、稗(ひえ)を刈り粟の庭仕事も次第に忙しくなってくる。栗拾いの子供らが、分け行く山路の草には、もう水霜が降りて竜胆(りんどう)の葉がうなだれる。 渓流の波頭に騒ぐ北風も、一日ごとに荒らだってくる。そして波間に漂う落葉の色を見ると、奥の嶺々を飾っていた紅葉は、そろそろ散り始め
文字遣い
新字新仮名
初出
「釣趣戯書」三省堂、1942(昭和17)年
底本
- 垢石釣り随筆
- つり人ノベルズ、つり人社
- 1992(平成4)年9月10日