こうぎょのさん
香魚の讃

冒頭文

一 緑樹のかげに榻(とう)(こしかけ)を寄せて、麥酒の満をひく時、卓上に香魚の塩焙(えんはい)があったなら涼風おのずから涎(よだれ)の舌に湧くを覚えるであろう。清泊の肉、舌に清爽を呼び、特有の高き匂いは味覚に陶酔を添えるものである。 今年は、鮎が釣れた。十数年振りで鮎の大群が全国の何れの川へも遡ってきたのである。青銀色の滑らかな肌を、鈎先から握った時、掌中で躍動する感触は、釣りした

文字遣い

新字新仮名

初出

「釣趣戯書」三省堂、1942(昭和17)年

底本

  • 垢石釣り随筆
  • つり人ノベルズ、つり人社
  • 1992(平成4)年9月10日