くわのむしとこせがれ
桑の虫と小伜

冒頭文

私の故郷の家の、うしろの方に森に囲まれた古沼がある。西側は、欅(けやき)や椋(むく)、榎(えのき)などの大樹が生い茂り、北側は、濃い竹林が掩(おお)いかぶさっている。東側は厚い桑園に続いていて、南側だけが、わずかに野道に接しているが、一人で釣っているには、薄気味が悪過ぎる。 そこには、鮒と鯰が数多く棲んでいる。十一、二歳になる私の伜は、学校から帰ってくると、おやつを噛み噛み、釣り竿を担い

文字遣い

新字新仮名

初出

「釣趣戯書」三省堂、1942(昭和17)年

底本

  • 垢石釣り随筆
  • つり人ノベルズ、つり人社
  • 1992(平成4)年9月10日