かんぶな
寒鮒

冒頭文

静寂といおうか、閑雅といおうか、釣りの醍醐味をしみじみと堪能するには、寒鮒釣りを措(お)いて他に釣趣を求め得られないであろう。 冬の陽(ひ)ざしが、鈍い光を流れにともない、ゆるい川面へ斜めに落として、やがて暮れていく、水際の枯れ葦の出鼻に小舟をとどめて寒鮒を待つ風景は、眼に描いただけで心に通ずるものがある。舟板に二、三枚重ねて敷いた座蒲團の上に胡座(あぐら)して傍らの七輪に沸(た)ぎる鉄

文字遣い

新字新仮名

初出

「釣りの本」改造社、1938(昭和13)年

底本

  • 垢石釣り随筆
  • つり人ノベルズ、つり人社
  • 1992(平成4)年9月10日