いしをくう
石を食う

冒頭文

岩魚(いわな)は、石を食う。石を餌にするわけではないが、山渓の釣り人に言わせると、一両日後に増水があろうという陽気のときには、必ず岩魚は石を食っている。岩魚の腹を割いて、胃袋から小石が出たならば、近日中に台風がくるものと考えてよいと、まことしやかな顔をするのである。 それは、ほんとうかどうか知らない。だが、小石をまとめた筒の巣のなかに棲んでいる川虫を、石筒のまま岩魚が呑み込んでしまうのは

文字遣い

新字新仮名

初出

「釣趣戯書」三省堂、1942(昭和17)年

底本

  • 垢石釣り随筆
  • つり人ノベルズ、つり人社
  • 1992(平成4)年9月10日