一 『斉正、その方は七面鳥を持っているか』 鍋島斉正が登城したとき、将軍家定がだしぬけにこんな質問を発したから斉正は面喰らった。 『……』 『持っているじゃろう、一羽くれ』 『不用意にござります。わたくし生来活(い)き物を好みませぬので——』 『はて、心得ぬ』 『何か、お慰みのご用にでも遊ばされまするか』 『そんなこと、どうでもええ』 家定は、生まれつき聡明の方ではな