わがどうしん
わが童心

冒頭文

二、三日前、紀州熊野の山奥に住む旧友から、久し振りに手紙がきた。 ——拝啓、承り候えば、貴下も今回、故郷上州へ転住帰農遊ばされ候由、時節柄よき才覚と存じ上申候。 小生もここ熊野なる故郷の山中へ疎開転居致し候てより、はや一年の歳月を過ごし申候。永き年月、都会に住み馴れたる者が、故山の杜邑に移りきては、水当たりもありやせん、人の心の激しさに触れもせん、とはじめのほどはいろいろの危惧

文字遣い

新字新仮名

初出

底本

  • 『たぬき汁』以後
  • つり人ノベルズ、つり人社
  • 1993(平成5)年8月20日