まみせんしん
魔味洗心

冒頭文

二、三日前、隣村の嘉平老が、利根川で蜂鱒(はちます)を拾った。鱒を拾うというのは妙な話であるが利根川では珍しいことではない。 蜂鱒というのは、蜂を食って眼をまわした鱒をいうのである。一体、鱒科の魚は飛んでいる羽虫が大好物であって、利根川の鱒もこの類であるから、蝶でも虻(あぶ)でも蜻蛉(とんぼ)でもかげろうでもおよそ水面に近い空間を飛んでいる虫を見れば水中から躍りだして、一気にそれを、ぱく

文字遣い

新字新仮名

初出

底本

  • 『たぬき汁』以後
  • つり人ノベルズ、つり人社
  • 1993(平成5)年8月20日