かおりぐま
香熊

冒頭文

一 このほど、友人が私のところへやってきて、君は釣り人であるから、魚類はふんだんに食っているであろうが、まだ羆(ひぐま)の肉は食ったことはあるまい。もし食ったことがないなら、近くご馳走しようではないかというのだ。 そうかそれは耳よりな話だ。馬の肉、牛の肉、豚の肉は世間の誰でも食っているから、これは日本人の常食だ。ところで僕は若いときからいかものが好きであって、永い年月の間に鹿、狸、

文字遣い

新字新仮名

初出

底本

  • 『たぬき汁』以後
  • つり人ノベルズ、つり人社
  • 1993(平成5)年8月20日