ふたつのかばん
二つの鞄

冒頭文

小さな鞄と大きな鞄と二つ店に並んでおりました。大きな鞄はいつも小さな鞄を馬鹿にして、 「お前なんぞはおれの口の中に入ってしまう」 と冷かしました。 二つの鞄は同じ時に同じ人に買われて、同じ家に行きました。すると小さな鞄の中にはお金や何か貴いものが詰められて、人間に大切に抱えられて行きます。大きな鞄はあべこべにつまらないものばかり詰められて、荷車に積まれたり投げ飛ばされたりして

文字遣い

新字新仮名

初出

「九州日報」1923(大正12)年11月20日

底本

  • 夢野久作全集7
  • 三一書房
  • 1970(昭和45)年1月31日