てんとうろく
点頭録

冒頭文

一 また正月が来た。振り返ると過去が丸で夢のやうに見える。何時の間(ま)に斯(か)う年齢(とし)を取つたものか不思議な位である。 此(この)感じをもう少し強めると、過去は夢としてさへ存在しなくなる。全くの無になつてしまふ。実際近頃の私(わたくし)は時々たゞの無として自分の過去を観(くわん)ずる事がしば〳〵ある。いつぞや上野へ展覧会を見に行つた時、公園の森の下を歩きながら、自分は或(

文字遣い

新字旧仮名

初出

底本

  • 漱石全集 第十六巻
  • 岩波書店
  • 1995(平成7)年4月19日