ゆきしろやまめ
雪代山女魚

冒頭文

一 奥山の仙水(せんすい)に、山女魚(やまめ)を釣るほんとうの季節がきた。 早春、崖の南側の陽(ひ)だまりに、蕗(ふき)の薹(とう)が立つ頃になると、渓間の佳饌(かせん)山女魚は、俄(にわか)に食趣をそそるのである。その濃淡な味感を想うとき、嗜欲(しよく)の情そぞろに起こって、我が肉虜おのずから肥ゆるを覚えるのである。けれど、この清冷肌に徹する流水に泳ぐ山女魚の鮮脂を賞喫する道楽は

文字遣い

新字新仮名

初出

底本

  • 釣りにつられて
  • 福武文庫、福武書店
  • 1994(平成6)年10月5日