ふかがわにょうぼう
深川女房

冒頭文

一 深川八幡前の小奇麗な鳥屋の二階に、間鴨(あいがも)か何かをジワジワ言わせながら、水昆炉(みずこんろ)を真中に男女の差向い。男は色の黒い苦み走った、骨組の岩畳(がんじょう)な二十七八の若者で、花色裏の盲縞(めくらじま)の着物に、同じ盲縞の羽織の襟(えり)を洩(も)れて、印譜散らしの渋い緞子(どんす)の裏、一本筋の幅の詰まった紺博多の帯に鉄鎖を絡(から)ませて、胡座(あぐら)を掻(か)いた虚

文字遣い

新字新仮名

初出

「新小説」1905(明治38)年3月

底本

  • 日本の文学 77 名作集(一)
  • 中央公論社
  • 1970(昭和45)年7月5日