えきふにっき
駅夫日記

冒頭文

一 私は十八歳、他人(ひと)は一生の春というこの若い盛りを、これはまた何として情ない姿だろう、項垂(うなだ)れてじっと考えながら、多摩川(たまがわ)砂利の敷いてある線路を私はプラットホームの方へ歩いたが、今さらのように自分の着ている小倉の洋服の脂垢(あぶらあか)に見る影もなく穢(よご)れたのが眼につく、私は今遠方シグナルの信号燈(ランターン)をかけに行ってその戻(もど)りである。

文字遣い

新字新仮名

初出

「新小説」1907(明治40)年12月

底本

  • 日本の文学 77 名作集(一)
  • 中央公論社
  • 1970(昭和45)年7月5日