かいきょうふうぶつき   |  
| 海郷風物記 | 
冒頭文
夕暮れがた汽船が小さな港に着く。 點燈後程經た頃であるからして、船も人も周圍の自然も極めて蕭(しめや)かである。その間に通ふ靜かな物音を聞いてゐると、かの少年時の薄玻璃(うすはり)の如くあえかなる情操の再び歸り來るのではないかと疑ふ。 艀舟(はしけ)から本船に荷物を積み入るる人々の掛聲は殊に興が深い。 「やつとこ、さいやの、どつこいさあ。」 「やれこら、さよな——。」
文字遣い
 旧字旧仮名 
 初出
 「三田文学」1911(明治44)年6~7月号 
 底本
- 現代日本紀行文学全集 東日本編
 - ほるぷ出版
 - 1976(昭和51)年8月1日