なめりがわほとりにて
滑川畔にて

冒頭文

北鎌倉で下車して、時計を見ると十時であつた。驛前の賣店で簡單な鎌倉江の島の巡覽案内を買ひ、私とユキとは地圖の上に額と額とを突き合せて、圓覺寺の所在をさがしても分らなかつた。 「圓覺寺といふのは、どちらでございませうか?」 ユキが走つて行つて、そこの離々と茂つた草原の中の普請場で鉋をかけてゐる大工さんに訊いて見てから、二人は直ぐ傍の線路を横切り、老杉の間の古い石磴(いしだん)を上つて行つ

文字遣い

旧字旧仮名

初出

底本

  • 現代日本紀行文学全集 東日本編
  • ほるぷ出版
  • 1976(昭和51)年8月1日