こうき
坑鬼

冒頭文

一 室生岬の尖端、荒れ果てた灰色の山の中に、かなり前から稼行を続けていた中越(ちゅうえつ)炭礦会社の滝口坑は、ここ二、三年来めきめき活況を見せて、五百尺の地底に繰り拡ろげられた黒い触手の先端は、もう海の底半哩(マイル)の沖にまで達していた。埋蔵量六百万噸(トン)——会社の事業の大半はこの炭坑(やま)一本に賭けられて、人も機械も一緒くたに緊張の中に叩ッ込まれ、きびしい仮借のない活動が夜ひるなし

文字遣い

新字新仮名

初出

「改造」1937(昭和12)年5月号

底本

  • とむらい機関車
  • 国書刊行会
  • 1992(平成4)年5月25日