ピーおかのさつじんじけん |
P丘の殺人事件 |
冒頭文
一 火曜日の晩、八時過ぎであった。ようやく三ヶ月計り前に倫敦(ロンドン)へ来た坂口(さかぐち)はガランとした家の中で、たったひとり食事を済すと、何処という的(あて)もなく戸外へ出た。 日はとうに暮れて、道路の両側に並んだ家々の窓には、既に燈火が点いていた。公園に近いその界隈は、昼間と同じように閑静であった。緑色に塗った家々の鉄柵が青白い街灯の光に照らされている。 大方の家
文字遣い
新字新仮名
初出
「秘密探偵雑誌 第一巻第一号」奎運社、1923(大正12)年5月
底本
- 幻の探偵雑誌5 「探偵文藝」傑作選
- 光文社文庫、光文社
- 2001(平成13)年2月20日