ひかげのまち |
日蔭の街 |
冒頭文
一 歳晩の寂しい午後であった。私は、青い焔をあげて勢よく燃えさかっている暖炉(ストーブ)の前へ、椅子を寄せて、うつらうつら煙草を燻らしていた。私の身のまわりは孰(いず)れも見馴れたもの計りで、トランクは寝台の下に投込んであり、帽子掛には二つの帽子と数本のステッキがある。飾棚の漆塗の小箱、貝細工の一輪挿、部屋の隅に据付けてある洗面台の下の耳のとれた水差、それから二組の洋服と外套の入った洋服箪笥
文字遣い
新字新仮名
初出
「探偵文藝 第二巻第一、二、四号」奎運社、1926(大正15)年1、2、4月
底本
- 幻の探偵雑誌5 「探偵文藝」傑作選
- 光文社文庫、光文社
- 2001(平成13)年2月20日