ぼうてい
亡弟

冒頭文

ああ、もう、死んでしまはうか…… 自分の正直さが、といふよりも歌ひたい欲望が、といふよりも酔つてゐたい性情が、強ければ強いだけ、〈頭を上げれば叩かれる〉此の世の中では、損を来たすこととなり、損も今では積り積つて、此の先(さき)生活のあてもなくなりさうになつてゐることを思ふと、死んでしまはうかと思ふより、ほかに仕方もないことであつた。 『どうせ死ぬのなら、僕は戦争に行つて死ぬのならよ

文字遣い

新字旧仮名

初出

底本

  • 日本の名随筆 別巻42 家族
  • 作品社
  • 1994(平成6)年8月25日