なつとさかな
夏と魚

冒頭文

一 夏の匂ひのする、夏の光りのある、夏の形体をもつてゐる魚——といつたら、すぐ鮎だ、鱚(きす)だ、鯛(たい)と鱸(すずき)だ。夏ほど魚が魚らしく、清奇で、輝いて溌剌としてゐる時はない。青い魚籠(びく)に蓼(たで)を添へる、笹を置く、葭(よし)を敷く、それで一幅の水墨画になる。夏になるとその生活の半分を魚釣りで暮す故か、私にとつて夏ほど魚を愛し、魚に親しむ時はない。極端にいふと暑い夏百日は

文字遣い

新字旧仮名

初出

底本

  • 集成 日本の釣り文学 第二巻 夢に釣る
  • 作品社
  • 1995(平成7)年8月10日