ばんぶつのこえとしじん
万物の声と詩人

冒頭文

万物自(おのづ)から声あり。万物自から声あれば自から又た楽調あり。蚯蚓(みゝず)は動物の中に於て醜にして且つ拙なるものなり。然れども夜深々窓に当りて断続の音を聆(き)く時は、人をして造化の生物を理する妙機の驚ろくべきものあるを悟らしむ。自然は不調和の中に調和を置けり。悲哀の中に欣悦を置けり。欣悦の裡に悲哀を置けり。運命は人を脅かすなり、而して人を駆つて怯懦卑劣なる行為をなさしむるなり。情慾は人を誘

文字遣い

新字旧仮名

初出

「評論 十四號」女學雜誌社、1893(明治26)年10月7日

底本

  • 現代日本文學大系 6 北村透谷・山路愛山集
  • 筑摩書房
  • 1969(昭和44)年6月5日