しそうのせいでん
思想の聖殿

冒頭文

思想の領地は栄光ある天門より暗濛(あんもう)たる深谷に広がれり。羽衣を着けたる仙女も此領地の中に舞ひ、悪火を吐く毒鬼も此の裡に棲(す)めり。思想の境地は実に天の与へたる自由意志の鬭塲(とうぢやう)なり。美は醜と闘ひ、善は悪と争ふ、或は桂冠を戴きて此の舞台より歴史の或一隅に遷(うつ)り去るあり、或は傷痍を負ふて永く苦痛の声を留むるあり。甲去れば乙来り、乙去れば丙又た来る。一往一来、頻又頻を極めて、而

文字遣い

新字旧仮名

初出

「評論 十三號」女學雜誌社、1893(明治26)年9月23日

底本

  • 現代日本文學大系 6 北村透谷・山路愛山集
  • 筑摩書房
  • 1969(昭和44)年6月5日