みずあかをぎょうしす
水垢を凝視す

冒頭文

一 鮎が水垢をなめて育つのは誰でも知っている。人間に米や麦が必要であるのと同じようなものだ。 しかし、水垢のないところでも、鮎は育つ。田圃の用水にも、溜池にも棲んで大きくなる。甚しいのになると、相州小田原在山王川のような溝川にさえ、盛んに鮎が溯上して来て育っている。だが、水垢のない川に育った鮎には香気がない。そして、肉がやわらかでおいしくないのである。鮎という形を備えているのみ

文字遣い

新字新仮名

初出

底本

  • 日本の名随筆4 釣
  • 作品社
  • 1982(昭和57)年10月25日