たぬきじる
たぬき汁

冒頭文

一 伊勢へななたび熊野へさんど、と言ふ文句があるが、私は今年の夏六月と八月の二度、南紀新宮の奥、瀞(とろ)八丁の下手を流れる熊野川へ、鮎(あゆ)を訪ねて旅して行つた。秋の落ち鮎には、さらにも一度この熊野川へ志し、昭和十五年の竿納めとしようと思つてゐたところ、心なき颱風(たいふう)のために山水押しだし、川底荒れてつひに三度目の旅は、あきらめねばならなかつた。 二度目のときの帰り路は、

文字遣い

新字旧仮名

初出

底本

  • 日本の名随筆59 菜
  • 作品社
  • 1987(昭和62)年9月25日