あにのきちょう
兄の帰朝

冒頭文

兄が洋行から帰られたのは、明治二十一年九月八日のことでした。家内中が幾年かの間待暮してゐたのですから、その年も春が過ぎてからは、その噂ばかりしてゐました。少し前に帰朝された人に、「年寄達に様子を話して下さい」とお頼みでしたので、その方が訪ねて下すつて、親切にいろいろ話して下さいました。日常生活から、部屋の様子、器具の置場などまでして話して下さるので、どんなだらうか、あんなだらうかと想像をも加へて、

文字遣い

新字旧仮名

初出

底本

  • 日本の名随筆 別巻31 留学
  • 作品社
  • 1993(平成5)年9月25日