ちんもくのとびら
沈黙の扉

冒頭文

私の生活がどんなに苦しい時でも、私は「私が生まれなかつたら……」といふやうなことを考へたことは余りない。私自身の生活に対して、どれほど疑惑や失望を抱いてゐる際にでも、私は生まれたことを後悔するやうなことはない。少くとも生命を信愛しようとする心だけは失はずにゐる。 私が惑ふ時、私が悲しむ時、私は一層生命を劬はり、生命を信愛する心を覚える。もし私が自分で自分の生命を断つことがあるとしても、そ

文字遣い

新字旧仮名

初出

底本

  • 日本の名随筆 別巻89 生命
  • 作品社
  • 1998(平成10)年7月25日