だきみょうがのせつ
抱茗荷の説

冒頭文

女は名を田所君子(たどころきみこ)といった。君子は両親の顔も、名もしらない。自分の生まれた所さえも知らないのである。君子がものごころのつく頃には祖母と二人で、ある山端(やまばた)の掘っ立て小屋のような陋屋(ろうおく)に住んでいた。どこか遠い国から、そこに流れてきたものらしい。 祖母の寝物語によると、君子は摂津(せっつ)の国風平(かざひら)村とか風下(かざしも)村とかで生まれたということで

文字遣い

新字新仮名

初出

「ぷろふいる」1937(昭和12)年1月号

底本

  • 怪奇探偵小説集❸
  • ハルキ文庫、角川春樹事務所
  • 1998(平成10)年7月18日