さんねん
三年

冒頭文

三年と云つても、この三年といふものは、三十年ぐらゐの気持であつた。荷作したまま荷が動かず、紹介してもらつた丸通の課長でさへ、『斎藤さん、もう手おくれですよ』などと云つたほどであつた。 渋谷駅に行つて見ると、いはゆる『疎開荷物』といふものが小山ほどに積まれて居る。然(しか)もこの小山ほどといふのは、誇張でない、ぎつしりと隙間(すきま)のないまでに積まれてゐるので、自分は来る度毎(たびごと)

文字遣い

新字旧仮名

初出

「国鉄情報」1948(昭和23)年6月

底本

  • 斎藤茂吉選集 第十二巻
  • 岩波書店
  • 1982(昭和57)年2月26日