にくやにばけたじんき |
| 肉屋に化けた人鬼 |
冒頭文
1 「こら、何故お前はそんな所に寝ているんだ」 フリッツ・ハアルマンが斯う声を掛けると、古着を叩き付けたように腰掛けに長くなって眠っていた子供が、むっくり起き上った。独逸サクソニイ州ハノウヴァ市の停車場待合室は、電力の節約で、巨大な土窖のように暗い。ハアルマンは透かすようにして子供の顔を見た。一九一八年十一月二十三日の真夜中だった。霙を混えた氷雨が、煤煙を溶かして、停車場の窓硝子を黒く撫でている。
文字遣い
新字新仮名
初出
「中央公論 第四十五年第八號五百十一號」中央公論社、1930(昭和5)年8月1日
底本
- 世界怪奇実話Ⅰ
- 桃源社
- 1969(昭和44)年10月1日