はんのうせいかつしゃのむれにはいるまで
半農生活者の群に入るまで

冒頭文

私が初めて自然と言ふものに憧憬を持ちはじめたのは、監獄の一室に閉じ込められた時のことである。ちようど今から二十二三年前の話で、——それ迄と言ふものは全く空気を呼吸してゐても空気と言ふものに何の感じもなく、自然と言ふものに対しても親しみをも感じ得なかつた。それが獄の一室にあつて以来は庭の片隅のすみれにも愛恋を感じ、桐にも花のあつたことを知り、其の美しい強い香にも親しみを感じたやうな理由で、自然と言ふ

文字遣い

新字旧仮名

初出

「読売新聞」1927(昭和2)年3月21日

底本

  • 石川三四郎著作集第三巻
  • 青土社
  • 1978(昭和53)年8月10日