うみ

冒頭文

庵に帰れば松籟颯々、雑草離々、至つてがらんとしたものであります。芭蕉が弟子の句空に送りました句に、「秋の色糠味噌壺も無かりけり」とあります。これは徒然草の中に、世捨人は浮世の妄愚を払ひ捨てゝ、糂汰瓶(じんだびん)ひとつも持つまじく、と云ふ処から出て居るのださうでありますが、全くこの庵にも、糠味噌壺一つ無いのであります。縁を人に絶つて身を方外に遊ぶ、などと気取つて居るわけでは毛頭ありませんし、また、

文字遣い

新字旧仮名

初出

底本

  • 日本の名随筆 別巻21 巡礼
  • 作品社
  • 1992(平成4)年11月25日