かんしょう ――ミクロネシヤじゅんとうきしょう――
環礁 ――ミクロネシヤ巡島記抄――

冒頭文

寂しい島 寂しい島だ。 島の中央にタロ芋田が整然と作られ、その周囲を蛸樹(たこ)やレモンや麺麭(パン)樹やウカルなどの雑木の防風木が取巻いている。その、もう一つ外側に椰子(ヤシ)林が続き、さてそれからは、白い砂浜——海——珊瑚礁(さんごしょう)といった順序になる。美しいけれども、寂しい島だ。 島民の家は西岸の椰子林の間に散らばっている。人口は百七、八十もあろうか。もっと小さい

文字遣い

新字新仮名

初出

「南島譚」今日の問題社、1942(昭和17)年11月

底本

  • 山月記・李陵 他九篇
  • 岩波文庫、岩波書店
  • 1994(平成6)年7月18日