うたのえんじゃくするとき
歌の円寂する時

冒頭文

われさへや 竟(つひ)に来ざらむ。とし月のいやさかりゆく おくつきどころ ことしは寂しい春であった。目のせいか、桜の花が殊に潤(うる)んで見えた。ひき続いては出遅れた若葉が長い事かじけ色をしていた。畏友(いゆう)島木赤彦を、湖に臨む山墓に葬ったのは、そうした木々に掩(おお)われた山際の空の、あかるく澄んだ日である。私は、それから「下(しも)の諏訪」へ下る途(みち)すがら、ふさぎの虫のかかって

文字遣い

新字新仮名

初出

底本

  • 昭和文学全集第4巻
  • 小学館
  • 1989(平成元)年4月1日