こがらしきこう
木枯紀行

冒頭文

——ひと年にひとたび逢はむ斯く言ひて  別れきさなり今ぞ逢ひぬる—— 十月二十八日。 御殿場より馬車、乗客はわたし一人、非常に寒かつた。馬車の中ばかりでなく、枯れかけたあたりの野も林も、頂きは雲にかくれ其処ばかりがあらはに見えて居る富士山麓一帯もすべてが陰欝で、荒々しくて、見るからに寒かつた。 須走(すばしり)の立場で馬車を降りると丁度其処に蕎麦屋があつた。これ幸ひ

文字遣い

新字旧仮名

初出

底本

  • 現代日本紀行文学全集 中部日本編
  • ほるぷ出版
  • 1976(昭和51)年8月1日