ようふ
妖婦

冒頭文

神田の司町は震災前は新銀町といった。 新銀町は大工、屋根職、左官、畳職など職人が多く、掘割の荷揚場のほかにすぐ鼻の先に青物市場があり、同じ下町でも日本橋や浅草と一風違い、いかにも神田らしい土地であった。 喧嘩早く、物見高く、町中見栄を張りたがり、裏店の破れ障子の中にくすぶっても、三月の雛の節句には商売道具を質においても雛段を飾り、娘には年中派手な衣裳を着せて、三味線を習わせ、踊

文字遣い

新字新仮名

初出

「風雪 三月号」1947(昭和22)年3月

底本

  • 定本織田作之助全集 第五巻
  • 文泉堂出版
  • 1976(昭和51)年4月25日