みちなきみち
道なき道

冒頭文

一 その時、寿子(ひさこ)はまだ九つの小娘であった。 父親が弾けというから、弾いてはいるものの、音楽とは何か、芸術とはどんなものであるか、そんなことは無論わかる道理もなく、考えてみたこともなかった。 また、石にかじりついても立派なヴァイオリン弾きになろうという野心も情熱もなかった。そんな野心や情熱の起る年でもなかった。ただ、父親が教えてくれた通り弾かねば、いつまでも稽

文字遣い

新字新仮名

初出

底本

  • 聴雨・螢 織田作之助短篇集
  • ちくま文庫、筑摩書房
  • 2000(平成12)年4月10日