きょうしゅう
郷愁

冒頭文

夜の八時を過ぎると駅員が帰ってしまうので、改札口は真っ暗だ。 大阪行のプラットホームにぽつんと一つ裸電燈を残したほか、すっかり灯を消してしまっている。いつもは点っている筈の向い側のホームの灯りも、なぜか消えていた。 駅には新吉のほかに誰もいなかった。 たった一つ点された鈍い裸電燈のまわりには、夜のしずけさが暈(かさ)のように蠢いているようだった。まだ八時を少し過ぎたば

文字遣い

新字新仮名

初出

「真日本」1946(昭和21)年6月

底本

  • 聴雨・蛍 織田作之助短篇集
  • ちくま文庫、筑摩書房
  • 2000(平成12)年4月10日